夢を見た



現実を1年半分くらい
削ぎ落とされたような夢だった







足りないピース











目が覚めて、
現実を捜し求めた。



朝。
窓から差し込む光も
部屋の様子も
数年前から
そんなものは何も変わらない。



誰かに会いたかった。


現在の自分と共に居る
誰かに会いたかった。











西部戦を直前に控えた秋の朝、
いつもより早くヒル魔は学校に来て
部室のドアを開けた。
鍵が開いていたのでおかしいと思いつつも
開けたドアの向こう、
その視界の中に姉崎まもりの姿を見つけ
ふうと息を吐く。



「こんな朝早くにテメーがなんでいる」
「勉強よ」
「ああ?」
「いつのまにか、ここが一番落ち着くようになっちゃったのよ。
だから朝テストの日とか、早く来てるのよ」
「ほー」
「ヒル魔くんは?」
「……」
「何かあったの?」
そう言って、真っ直ぐな視線をこちらに向けた。
「…夢を見た」
1拍置いて、ヒル魔はそう言葉を出した。



「夢って、なんの夢?」
「…テメーにゃ、絶対に言わねぇ」
「そう言われるとすごく気になるわ。
もしかすると夢に、わたし出てくる?」
「出てこねぇ」
「ああ、じゃちょっと安心」
安心じゃねぇよとは言えず、そのままヒル魔は押し黙る。







誰も居なかった。
そんな夢だった。



もう秋大会は始まっているのに
ヒル魔と栗田の2人しかいなくて
ムサシの喪失感を抱えたまま
途方にくれる夢。



出会ったデビルバッツのメンバーたちは
誰も居なくて。
足りないピースがあまりに多くて、
ひとつずつそのピースと出会い、埋めていったはずなのに
人生のジグソーパズルを始める前に戻ったようで。



だから確かめたかったのだ。
時間が逆回転してないかどうかを
部室に来ることで、
デビルバッツの誰かに会うことで。











そして部室には姉崎がいた。
普段こんなに朝早くには
いない人間がヒル魔の目の前にいて。
デビルバッツの立派な一員なのに
加えて…惚れた女で。



「どうかしたの?」
姉崎は立ち上がって、ヒル魔の前に来て
心配そうな顔をしている。



そっと両腕をまわして前にある肩を抱いた。
しかしこの間と同じで
びくりと震え、また逃げようとする。
「糞マネ」
呼ぶと眉根を寄せ小さく首を振った。



嫌がっているようにも見えて
何故か辛そうで
さすがにヒル魔も痛みを覚えた。
無言で、腕をほどいた。



姉崎も無言で席に戻り
教科書に視線を落とす。





その痛みがヒル魔にここが現実だと確信させる。
浮かび上がる記憶と共に
ピースがカチカチとはまっていく。



まだ全部のピースは揃ってはいない。
どんなに足掻いても
今は待つことしかできない。



すでに手に入れたピースは
そのひとつひとつが
ヒル魔にとって大切なものだった。



無くしたくなくて
無くしたくなくて
そうして動けなくなっている自分がいた。







夢を見た。



その夢は
足りないピースがあまりに多くて。



だから
誰かに会いたかった。



現在の自分と共に居る
誰かに会いたかった。




















現実はこの場所。
痛くてもこの場所。














『夢を見た』
マリアシリーズバージョンです。





2006/3/3 UP


Back