ひやりひやり
心を冷やして








胸が痛い











静かな秋の午後だった。



担任が出張でLHRがなかったため
今日は早めに教室を出た。
わたし、姉崎まもりがアメフト部室に来たときには
まだ誰も来ていなかった。



制服を着替えて、
ひとりカジノテーブルの上に突っ伏す。
昨日の部長会議の議事録をまとめたいと思っていたのだが
どうにも体が動かない。
腕に当たるテーブルのひやりとした感触を
わたしは心地よく受け止める。


ひやりひやり。
わたしの心も冷やして。







昨日の部室でのこと。





「その呼び方もやめて!」
語気の荒さと声の大きさに
一番驚いたのは自分だった。



ヒル魔くんはその時何も言わなかった。
彼が投げかけた沈黙は短い時間だったけれども
とても重く感じて。
もしかすると
気が付いてしまったのだろうか。
それはわたしにも分からなかった。



あんなこと言わないつもりだった。
胸の奥に
隠しておくつもりだった。






最近。
そう、ほんとうに最近なのだけど。
彼に「糞マネ」と呼ばれると辛くなる。



胸が痛くなる。



誰にでもそんな物言いをする人だとは
はなから承知していたし、
春からこの秋が深まった現在まで
いつもいつも言われてきた。
それでも決して肯定はせず、
不器用ながらも
さらりと流してきたはずなのに…。



2人きりの時だけでもいい。
彼に名まえを呼んでほしいと思うのは
欲張りなのだろうか。



特別扱いをしてほしいと思っているわけじゃない。
そんなことはしない人だって
分かりすぎるほどに分かっている。
でも将来わたし以外にもマネージャーが入ると
揃って「糞マネ」と呼ばれてしまうのだろうかと思うと
それはやっぱり少し寂しいな…と感じてしまうのだ。



考えると痛い。



けれど
いくら悩んでもどうにもならない。
割り切れない自分が歯痒くてたまらない。



知らない自分が顔を出す。
何かが変わっていくような気がする。











がた、と音がする。
わたしは凍りついたようにドアの方を見つめる。
ひやりひやり。
痛くて腫れてる心を冷やして。





「糞マネ、早いな」
ドアが開いて、ヒル魔くんが顔をだす。





ああ、締め付けられるように。
胸が。


痛くて。




















あちこちが痛くなる
今まで平気だったのに




2006/2/24 UP



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