並木道は続いている
人生のように

立ち止まって
しまいたくなるかのように










並木道










聞こえるか聞こえないかくらいの
微かな音をたてて
銀杏の葉の黄色が舞って舞ってそっと落ちる。



秋の季節は木々の色を鮮やかに変化させ
雪の舞うのと同じ速度で
その葉を落としていく。







僕、小早川セナと、姉崎まもりことまもり姉ちゃんは
銀杏の並木道を歩いている。
普段はあまり通らない長い並木道だった。

アメフト部の用事で買い出しのため
少し遠出をして、その帰り道。



まもり姉ちゃんは途中でその足を止め、落ちた黄色を見る。
そのまま立ち尽くして動かなくなった。
並木道は黄色の絨毯のよう。
俯いて俯いてそれらをじっと見つめて。



「どうしたの?まもり姉ちゃん」
振り返って、抱えた荷物に邪魔されながらも
僕は声をかける。



「ねえ、セナ」
「うん」
「ねぇ、セナ」
「うん」
「この道の先に行くと…そこには何があるのかしら?
先が見えなくて、怖くて、ここに立ったまま
動きたくないのはどうしてなのかな」
「…うん?」
僕はよく意味が分からなくて、首を傾げた。
「ああ、ごめんね。セナにこんなこと言っちゃって。
何だか明日の自分がどんな自分かが分からないの。不安なの。
今日が明日になってしまうのが、最近すごく怖いの」
自分が変わっていってしまうことが、怖いと、
そう言っているような気がする。
「…ああ、そういうのって分からないでもないなあ…」
「自分で言ってる意味が分かんないけど…ごめんね」
まもり姉ちゃんは俯いたまま、ぼろぼろと黄色の落ち葉の上に
言葉を落としていく。



何か抱えているのかな、と思ったけど
それ以上は訊かなかった。
まもり姉ちゃんもそれ以上は言わなかった。





僕はそれでも少しだけうれしかったんだ。
付き合いは長いけど、今までこんな風に
自分の気持ちを僕に向かって吐露することは
なかったような気がするから。





いつもたくさんの優しさで
僕を守ってくれていて。





今はまだまだ力がなくて
彼女に守られるばかりなのだけど。
きっといつかは、そうきっといつかは。
彼女が今まで僕にくれた優しさを
僕は何かの形で彼女に返すことができたらと思っている。



アメフトを始めて、僕が知ったことは数多くあるけれど
前へ進んでいく…その勇気だけはその最たるものだった。
ビビリでパシリだった僕も
少しずつ変わっていけるような気がするんだ。



そして今の僕に、出来ること…。





荷物を片手で抱え上げ、空いたもう片方の手で
まもり姉ちゃんの手を握った。
そのまま引っ張って、並木道を歩く。
一歩一歩歩いていく。



「ありがとう、セナ」
そう言葉は投げかけられた。










かさかさと音がする。
落ち葉を踏むその音がする。





続く並木道のその向こうには
幸せがあるといいのになと
まもり姉ちゃんの手を引きながら
二人でゆっくりと歩きながら
僕はそう思っていた。





















お初のセナ視点のお話。
これは後で『優しさの河』という
お話に繋がっていきます。





2006/2/17 UP



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