もしも青い一対の星を
手に入れることができたなら



見たいものは
ただひとつ











eyes










部長会議が終わって校舎を出ると
もう夜の帳は下りていて
西の果てに沈んでいった太陽の色が
わずかに残っているだけだった。



朱色のそれは、夜の色に混じり
だんだんと薄い緑色に変わっていく。



揺れる大気と
移り行く西方の空の色を見つめて
姉崎まもりはしばらく
昇降口を出たまま固まっていた。





またなんか見てやがるな…と
俺、ヒル魔はひとりごちる。
どうもこの女と自分とは見ている風景の
その何処かが違っているような気がいつもしている。



普段見えないものが目に入るからこそ
本当に見えなければいけないことに、気が付かない。
そんな気がする。





「で、何を見てるって?」
「光の境目。どこまでが夕方でどこからが夜なのかな」
「さぁな」
そのまま立ち止まって、この女は部室に帰る気配も見せない。
まだ練習は終わってねぇぞ。
「…テメーの目が俺についてたら、世界が違って見えるんだろうなー」
「ねぇヒル魔くん。もしわたしの目を持っていたとしたら
……何が見たいの?」
俺はケケケと笑う。
面白れぇこと言うじゃねぇか、糞マネ。





答えは簡単、もう決まってる。
だがテメーには絶対に、言わねぇ。





「何が見たい?」
「……シュークリームでも見りゃ、美味そうだと思うのかもしれねぇな」
「やーね、美味しいわよ。やっぱり雁屋のが絶品よね」
「ほら行くぞ」
促されて、ようやく部室に向かって歩を進め始めた。
しかしまだ未練があるのか、西の空を振り返り振り返りつつ歩いていく。





もしも俺がこの女のその青い目を持っていて
同じ感覚で見ることができるのなら、





見たいのは「鏡」。



見たいのは「ヒル魔という自分」。





この女には俺のことが
どんな風に見えているのだろう。



それだけが気にかかる。










やはり悪魔の姿をしているのだろうか。






それとも。



















人によってこの世界は
いろんな見え方をしているのです。

『向日葵の花は遠く』の部長会議の後という設定で。





2006/2/4 UP



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