Searching for the Moon.










月を見ましょう










夏の終わりの泥門高校。
夜も更けてアメフト部の練習も終わり
部室の鍵を閉めてヒル魔も学校を出ようとした。



校門まで来ると、そこに姉崎まもりの姿を見かけて
おやおやまたかと思う。
まもりの視線を追って空を見上げたが
どんよりと曇り空。
星のかけらも見当たらない。



まもりは宙(そら)を見上げていた。
夏の夜、満天の星はなくても。
うれしそうに、それはうれしそうに見上げている。





「テメーはそして何やってんだ、糞マネ」
「いい加減その単語にも飽きてきたわね。ほら雲の向こう」
指差すその先をヒル魔も見上げる。
夜の闇に薄く広がる雲の向こうに、光を纏った丸い月が見えた。
「月を探していたの。空一面に雲が張っていて逢えないと思っていたわ」
「よくわかんねぇ。月に…逢う?」
「好きだから。逢えたらうれしいわ」
まもりはそう言って、また月に視線を向ける。
ヒル魔はガムをひとつ口の中に放り込み、「帰るぞ」と言った。








好きだから、逢えてうれしいから、
まもりは月を探し、その光を見つけて笑顔になる。



好きな男の前にいても
そんな風に優しく微笑むのだろうかとヒル魔は思う。
今はまだ恋もろくに知らないだろう、この女が。



うれしそうに、それはうれしそうに微笑む。
逢えてうれしいとその表情が気持ちを語る。





笑顔はいらねぇと思っていたはずなのに。
その笑顔のまま、こちらを向かねぇかなと
思ってしまった自分に戸惑う。
その戸惑いはじわりと意識の何処かに沈んでいく。









光の輪郭を雲のとおくに浮き出している月を
一瞥して、ヒル魔は歩きだした。








南の空に月はあった。

















『星を見ましょう』と対になる話です。


青い星を彼女だとすると
傍にいて光る月はやはり彼だと思うのですが。

太陽ばかり見ている地球が
月に気がつくのはいつになるのか…。






2006/1/18 UP



Back