あまりの居心地の良さに
このまま
終わりなんてないのだと
そう思ってしまうような










居心地










それまで部室の居心地なんてものを
ヒル魔は全然考えたこともなかった。





桜の記憶もまだ新しい春である。
光が増していく太陽だけが
近づいてくる夏を予感させる、そんな頃。



姉崎まもりがマネージャーになって
部室の様子が一変して、きれいに片付けられて。
口癖のように「セナをいじめないで」とうるさいが
アメフトの知識も頭に入れ、マネージャー業を苦もなくこなしている。
「何か探し物があったら言ってね。物の位置は覚えていると思うから」
といいながら、コーヒーを出してくる。
その香りが鼻腔をくすぐりつつ、春の風とともに流れていく。
ヒル魔はテーブルに足を投げ出してノートパソコンを開けた。
コーヒーの熱さとほどよい苦味が心地よい。
「ヒル魔くんはブラックでいいのよね。…どうかしら?濃かったりしない?」
「糞マネ、テメー自分のコーヒー淹れる腕に自信がねぇのか?」
「そんな名前じゃありませんっ。姉崎まもりです!」
「ケケケ、じゃ糞アマか?」
ちょっと膨れて頬を赤くしているまもりを見ていると、
楽しくてたまらない。
まもりは頭を軽く振って言う。
「…そうじゃなくて。自信とかの問題じゃなくて。
ここで一番コーヒー飲むのってやっぱりあなたでしょう?
できれば好みに合わせたいわ」
笑顔でそんなことを言う。





労働力どころか、もしかすると
とんでもない拾い物をしたのかもしれない。





「いいんじゃねぇか」
そういうとまもりの表情が明るくなった。
この居心地の良さに、
しばし浸っていたいとヒル魔は思う。
もしかすると続くのだろうか。
このまま、もしかすると。





まだまだこれからで。
春大会も続いていて。



そしてクリスマスボウルの夢を追う最後の年。

どう足掻いても、
その夢は確実に今年中に終わる。



それでも終わりがくるまでは
今は勝つことを
決して諦めずに。






まだまだこれからで。
まだ春でしかなくて。













クリスマスボウル。
デビルバッツのメンバーにとって
どうして一生に2回しかチャンスがないのだろう。
栗田くんじゃないけれど
そう思わずにはいられないのです。




2005/12/16 UP



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