この熱が
どれくらいあるのか


これから
どこまで上がっていくのか


もう自分じゃ
よく分からねぇ




















太陽が西の彼方にその姿を隠してしまうと
気温は急激に下がり、世界全体を冷やしていく。
冬ももうそこまできていて
風に触れる肌が1番それを実感している。



アメフト部の今日の練習も終わり
糞ガキたちもそれぞれ帰途についている。
俺、ヒル魔と糞マネの2人だけがまだ部室に残っていた。
いつものことで、よくある日常で。



「やっと2人きりになれたわね」
ただ違うのは、そんなことをほざきやがった
今俺の目の前に立っている女の台詞。
嘆息すべきか、感動すべきか迷いながらも
頭に入っていかないノートパソコンの画面を閉じて、一言だけ返す。
「ばれてたか」
「ばれてました」
額にそっと掌をあてられて、
その冷たさに対比してやっと自分の状態を理解した。
世界を冷たいと感じていたのは季節のせいだけではなかったようだ。





「夕方に救急箱から体温計を持ち出したでしょう?」
ちゃんと戻しておいたのに、何故そこから気づくかな、テメーは。
「この時期に知られたくないというあなたの気持ちもわかるから
2人になるのを待ってたの。何度くらいあったの?熱」
「さぁな」
「もう、体温計は何のために…」
「そんなもん最初の十秒くらいしか見てねぇぞ。
数字の上がり方でわかるからな。やばいかどうか」
「風邪?」
「ほかに症状なんかねぇ。ケケケ、案外知恵熱かもな」
赤ん坊の出す熱なわけはねぇよな、と自分で突っ込みをいれつつ
女の顔を見上げると掌を俺の額に置いたまま、曇った表情をしていた。
こいつの手はこんなにも冷たかったのか、あの時に組んだ指は暖かかったのに。
だが今はその冷たさが心地よくてたまらない。
このままこの手首を掴んで引き寄せたらどんな顔をするかな?と思ったが
身体がうまくいうことを聞いてくれないようで、
ふらりと視界が揺れているようで
さすがにマジでやばいかも…と思い始めた。



女の手は離れてはしまわずに頬をするりと通って
首の横に移動する。
冷たさはもうあまり感じなかった。
俺の熱が少しずつ移っているようだった。
「帰ろうヒル魔くん」
「……」
「ああ、でも冷やしたほうがいいよね。解熱剤もあるけど。
早く帰って休んだほうがいいと思うし。
それより暖かいコーヒーでも淹れたほうがいいのかしら」
「糞マネ」
「すごく熱いわ。どうしたらいい?」
「まずはテメーが落ち着け」
「でも」
「もひとつ手、寄こせ」
もう片方の手首を掴んで、同じく首に当てた。





冷やさなくてもいい、解熱剤もいらねぇ。
女の手は冷たくてそれで身体は少しは楽になれる。
熱はどれくらいあるのかはわからねぇが
移してしまいたいと思う。

この熱を奪ってほしいと思う。



今日はやけに冷たく感じるこの女と
今日だけはやけに熱を持っているこの俺と
2人でいればちょうど良くなるかもしれねーな。
俺は揺れる意識の中でそんなことを考えていた。











熱はこのまま冷やされてしまうのだろうか。
それとも、心に篭ったままだんだんと。
だんだんと熱くなるばかりなのだろうか。
自分でも気がつかないうちに。





目の前にいるこの女が、
まだ何も気がつかないうちに。












片思いしている彼が
すごく好きです。




2005/12/11 UP



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